「負動産」時代の恐ろしい現実②
地方都市など数万人規模で人口が減少している地域は、空き家が増え、インフラは劣化し、場合によっては産業も衰退していきます。不動産価格、特に住宅価格の下落とともに、団塊の世代が住んでいた大量の住宅が、その死によって無用の長物と化すことになり、需要が減少するにもかかわらず、大量に市場に供給され続けることになります。そうなると、不動産価格は輪をかけて下がっていきます。
相続する土地の価格は、その土地の相続税路線価や固定資産税評価額に倍率を乗じた価格を基準に評価されます。これは、適正な価格とされる地価公示価格等の80%水準です。また、家屋の価格は固定資産税評価額が基準となります。家屋はどんなに老朽化しても20%の価値は保つのが固定資産税評価基準であり、それを基にした相続税の評価基準です。この結果、土地と建物を合わせた価格は、相続税評価額の方が適正な価格を上回る現象が普通に発生しています。現在、大都市部の一部の不動産価格はわずかに上昇傾向にありますが、地方都市では下落が続いています。この二極化は今後も続くでしょうが、地価が上昇している都心とはいえ市場がひとたび失速して不動産の売値が下がれば、相続税の評価額と実際の売値との間で差が大きく出て、売却を考えた場合、赤字の相続になるケースが増えることになります。これは地価の下落が続く地方都市ではもはや当たり前になっています。
不動産を売らずにそのままにしておけば、相続税に加えて、住んでいないにもかかわらず、毎年の固定資産税や維持費が重くのしかかってきます。相続するだけで損をする「負動産」が、団塊の世代の高齢化や相続をターニングポイントとして日本全体で急増していくことになります。団塊の世代から相続を受けることになる団塊ジュニア世代は、既に都市部に住宅を所有していることが多いと考えられます。両親の家が居住地から離れたところにあれば、その管理までなかなか手が回らないのも事実です。建物は放っておけばすぐに劣化し、人に貸すことも売ることもできなくなってしまいます。したがって相続人は「すぐに売る」か、「取り壊して更地にするか」の二択を迫られることになります。もちろん建物を取り壊すことなく即座に買主が見つかれば良いのですが、築後数十年を過ぎた団塊世代の住宅では、現実はそのようにうまくいくものではありません。そして、建物を解体するにも最低でも坪当たり3~4万円、総額200万~300万円もの高額な費用の負担が必要となります。
さらに、もっと厄介な問題が顕在化してきました。それは、戸建て住宅のマイナス価格の問題です。戸建て住宅は、不動産鑑定評価の立場で考えると「自用の建物及びその敷地(自建て)」の類型の不動産になり、最有効使用の観点から建物を取り壊すことが妥当と判断される場合において、更地価格から取壊し費用を差し引いた価格が適正な不動産価値となります。この更地価格から取壊し費用差し引いて求めた価格がマイナス価格となる場合が地方都市の住宅地で実際に見受けられるようになってきました。今まではあまり考えてこなかったことが、農村部だけでなく、地方都市の住宅地でも当たり前になりつつあります。舞鶴市のような人口8万人規模の都市でもこのような状況が顕在化しつつあり、今後も人口が減少していく地域では、土地価格の低下と取壊し費用の上昇で一般的になることが容易に想像できます。
こうなると相続の際は、もう見て見ぬふりをするしかないということになるでしょう。一般的な戸建て住宅でも、固定資産税は10~20万円近くかかります。今後住むこともない不動産の売り時は「今」がチャンスなのかもしれません。しかし、既に買い手は徐々に見つかりにくくなっているのが現実です。すなわち、現在所有している不動産は、2030年頃の「大量相続時代」には4分の1が空き家と化し、その頃には住宅地価格が半額になっていることになります。皆が現在信じている不動産の価値は、ほとんど崩壊してしまうと考えておくべきです。
このように「不動産の相続で損をするケース」が増えていくなかで、不要な資産の『押しつけ合い』が家族間で多発することになるでしょう。『貯金はいるけど厄介な不動産はいらない』と誰かが言い出せば、「相続」が「争族」化してしまうことが懸念されます。相続放棄や押しつけ合いが続けば、行政も家族も手をつけることができない「負動産」が増加していくことになります。
一度「負動産」のスパイラルに巻き込まれれば、もはやどうすることもできないことになります。それが「大量相続時代」に待ち受ける「負動産」の恐ろしい現実なのです。現在のところこの問題に関する有効な処方箋はないのが現実ですが、確実に言えるのは、地方都市等の人口減少が進む地域の住宅地価格はこれからも需要と供給の原則から下落が続くことです。「大量相続時代」が来る前に、「マイナス価格」になってしまう前に、また、「ババ抜き」になってしまう前に処分するのが、悲しいかな現時点で取りうる有効な方策になっています。